山嵐は決して

酔ったとき、私は剣を見るためにランプをつけました
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端を投げてやる

2015年08月20日

端を投げてやる
気をつけろ」と小さくささやきかける。「見張りが近づいてきてる」
「何も見えんぞ」
「音がしたんだ」呪文のことを説明しても始まらない。
「耳がいいんだな」
 二人は闇の中で、眠たげな見張りがぶらぶらとやってきて、また霧の中へと消えていくのを見送った。
「こいつを手伝ってくれ」重い材木鑽石水を窓枠に押し上げながら亭主が言った。「これを胸墻《パラペット》に押し出して、その上を渡るんだ。向こうに着いたらこのロープの。ロープはここに固定してあるから、そいつを伝って壁の外に降りればいい」
「わかった」スパーホークと亭主は、街を囲む壁とのあいだの空間に材木を渡した。「恩に着る」騎士はそう言うと材木にまたがり、じりじりと壁に向かって前進した。立ち上がり、霧の中から飛んできたロープの束を受け取る。ロープを闇の中に投げおろして壁を伝い降り、しばらくすると騎士は地上に立っていた。ロープが霧の中に引き上げられ、やがて材木を屋根裏部屋に引き戻す音が聞こえてきた。「うまく考えたもんだな」街の壁から慎重に距離を取って、「場所を覚えておかなくては」
 霧のせいで方角はわかりにくかったが、そびえ立つ影のような街の壁を常に左手に見ながら歩くことで、だいたいの見当はつけることができた。夜は静かで、踏みつけた枯れ枝の折れる音がひどく大きく聞こえた。
 スパーホークはふと足を止めた。鋭い勘が、見張られていると告げている。鞘《さや》鳴りの音を抑えるためにゆっくりと剣を引き抜き、片手に剣、片手に槍を握って、騎士は立ったまま霧の中を透かし見た。
 それはそこにいた。闇の中にかすかな光が見える。あまりに弱い光なので、気がつく人間はほとんどいないだろう。その光が近づいてくる。わずかに緑色を帯びているようだ。スパーホークは身動きもせずにじっと待ち受けた。
 闇の中に人影があった。ぼんやりしているものの、人影であることは間違いない。フードつきの黒いローブを身にまとっている。かすかな光の源《みなもと》はフードの奥にあるようだった。人影はとても背が高く、あり得ないほど痩《や》せている。まるで骸骨《がいこつ》のようだ。なぜかスパーホークの背筋を冷たいものが走った。騎士はスティリクム語をつぶやき、剣の柄《つか》と槍の柄《え》をつかんだまま指を動かした。槍を上げ、穂先から呪文を解き放つ。どちらかというと単純な呪文で、霧の中の痩せた人影の正体を知るためのものだ。しかし返ってきたのは邪悪さが凝《こ》って固まったような大波で、スパーホー骨傷クは思わず声を上げそうになった。何者であるにせよ、人間でないことだけは確かだ。



Posted by 山嵐は決して at 00:35│Comments(0)
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